デジモンインフルエンス

第5話「青空」


 

 

 女性が立っている。またも人間ではない。
ブロンドの長い髪に、身長は先ほどのレオモンに匹敵する大きさ。顔の上半分を十字の入った仮面が覆い、身にまとう白い衣はほとんどが継ぎはぎの状態で、肌を多く露出している。そして背中には、光り輝く白き八枚の翼。
その姿はまるで天使――
狼一の手はデジヴァイスのドットマトリックスの光によって照らされる。
――ANGEWOMON。

「てめぇ、赤神に何しやがった……?」
「なにもしてないわよ。ただこの世界に紛れこみ、暴走したデジモンをデリートしたまでよ」
初めて見る、アグモン以外に喋るその異形。エンジェウーモンはまるで呆れるように首を傾げた。

「こうなるってわかっててやったのかよ……」
うっすらとは気づいていた。パートナーであるデジモンとほぼ全ての五感の共有がされている以上、どちらかが死んだ場合も、例外ではないと。

「まぁ、同一の魂を持つ片割れがデリートされましたから当然といえば当然ですね――」

 ──言葉を遮る――疾走。
意識しないうちに、ムシャモンは天使の元へ走る。
「ふざけんじゃねえええ!!」
「やれやれ、こちらも暴走を開始しましたか」
エンジェウーモンは弓を構え、躊躇なくムシャモンに光矢を放つ。
「うぉおおおおおおおおおおお」
飛んできた矢を目で捕え、刀で弾け飛ばす。
だがこれまでの対デジモン戦の相手とは、威力が違った。
ムシャモンが振りかぶると、矢、そして刀。その両方とも弾け飛びデリートされる。
最大の得物である刀を失うが、それでもムシャモンは走るのをやめない。
天使までの一直線を全速力で──。
奴が次の攻撃体勢を整えるまでに、その場所にたどり着く――タックルを決める。
しかし。

「一矢だけは、防げたようですね。でも――いつまで続くかしらね」
ムシャモンの捨身ともいえる突撃は虚しくも、天使を通りすぎる。
エンジェウーモンは翼を羽ばたかせ地上から何十メートルか上空に浮かびムシャモンの攻撃をかわす。
そして弓を引く。
動いていなければ、恰好の獲物となってしまう。
ムシャモンは、またも走る。
飛んでくる矢は一つではない、二つ目三つめと幾つもの矢を、射る。
地上に光の矢が雨と共に降り注いだ。
このままではいつか――
エンジェウーモンは矢の放つ位置を微調整しながら、限りなくムシャモンへの射程を狭める。
――捕えられる。
矢が撃たれる。

 「―――――――――――――っ!!!!」
狼一の叫びがムシャモンの叫びとなり――ムシャモンの叫びが狼一の叫びになる――。
ついに標準を捕えた光の矢が、ムシャモンに突き刺さる――。

 

 

 ――思いだした。

 

 ――消えていたはずの右手の刀が復活し、こちらに飛んできた光の矢を弾けとばした。
今度は矢のみが消滅――。刀は凛として光沢を保つ。

 

 エンジェ―モンは自分の攻撃が塞がれた事よりも、今、目前の状況すべてに驚愕する。
武者は武者でも、今さきほどのムシャモンの姿とは違う。
全身は変わらず鎧に包ままれているが、カラフルな色から黒一色に揃えられており、両肩と頭の甲冑からは刃物が生え、白く長い髪を後ろに伸ばしている。
そして何よりも――。

 

 

 狼一は異変に気付く。
ムシャモンが視界から消えたと思ったら、自分の足が黒き竜のような、かぎ爪の足になっており、ずっしりと地面に足跡を付けていた。両手に、先ほどのような単純な構造の刀ではなく、くの字曲げられた、複雑な形状の刀を握っている。
これは――。
(ムシャモンと……一体化……して――?)




――100%シンクロ・モード――
「マトリックス・エボリューションですって……?」
エンジェウーモンが焦りの表情を浮かべ、矢の発射を再開する。
しかし、武者は動かない。
次々と射る矢はその両手に掴まれた刀で、なぎ倒されていく。
しかし、刀では空中にいるエンジェウーモンには攻撃できない。

「このままじゃらちがあかないわね……」

 


 

「それは、どうかのう」
今まで空洞であったアグモンの意識が狼一の中に雪崩の如く流れこんていく。
両腕を上げ、刀の柄と柄をぶつける。
ジョイントした二つの刀は刀ではなくなった。
その姿はまさしく先ほどまで天使が使ったいた得物と同じ――。

 

 

「あれは……」
エンジェウーモンに悪寒が走り、矢を打つ姿勢をやめ背を向け旋回――逃走――。

 

 

 「もう遅い!」
――弓。
変化したその獲物を、両腕で勢いよく引き――射る。
天使のものより、太くずっしりとした鉛色の矢が武者から放たれた――。

 



生まれて間もないころはまだ仲間がいたのを覚えている。
毎日その仲間たちと穏やかな日々をすごし、幸せだった。
だがある日――世界は闇に包まれる。
仲間たちは異界からやってきたパートーナー――選ばれし子供達と、その闇の者達を倒すべく旅に出た。
パートナーのいない自分は一人取り残される。
――孤独だった。

 

 孤独は苦痛だった。
誰もいない街で一人きり。なぜ自分がこの世に生を受け、この空間に存在しているのか。自分で自分を見失いそうになる。
孤独を埋めるためなのか、もしくは自分一人でも、闇から世界を救う手助けができるのでは、と踏んだのか。記憶がもう定かではない頃、成長期――アグモンへの進化と同時に、住んでいたまちを離れ、旅に出た。
途中、闇の者に遭遇し、始めての戦闘を経験する。
命からがら勝利を収め、パートナーがいなくても闇を葬る事に協力出来る――。
そんな風に――初めての戦闘での勝利は、今まで無意味と思っていた自分の生に価値をくれた。
闇の者を討伐している時は、言い様がない快感に包まれる。
一匹デジモンを倒していくたびに、孤独感が埋まっていき、一つ進化を重ねるごとに満足感を覚えるようになる。
いつからか、デジモンを倒す事と、それによって手に入れた強大な力こそが自らのアイデンティティとなっていく。
その内、闇の者がこの世にいなくなり、世界の闇が光に照らされても闘争本能は止まらなかった。
闇の者ではない、デジタルワールドに平和に暮らす善良なデジモンも、前に立つすべて者に――手をかけるようになっていた。
殺戮に生き、ただそれだけをしながら旅を続けていると、ある日、自らを"神"と名乗るデジモンが自分を訪ねてきた。
この世界の"闇”である自分をデリートするために。
神と名乗った四足歩行で黄金龍のデジモンは、初めて目にした者だと思っていたが、交戦をしているうちにある事に気付く。その相手はかつての、自分の生涯でたった一度だけの仲間のうちの一匹だと。
――意識はそこで途絶える。

 

 

 気づいた時には選ばれし子供との会合を果たしていた。
本来ならば自分にもパートナーがいたのだ。と、おおいに喜ぶべきだったが、生憎全ての記憶と感情を失っていた。
後者の方はいつからなくしていたのかもわからない。
少年は遊佐狼一と名乗った。

 



圧倒的孤独。そして繰り返される殺戮。
ようやっと知る事の出来たアグモンの頭の中をついに狼一は知るが、出てくる言葉が見つからない。
そして戦闘は続く。

 

 

 武者――狼一の放った矢は、エンジェウーモンの背に命中――。
したが、弾かれた。
硬い――。
否。
矢の攻撃を他の第三者が防いだのだ。狼一の目には一瞬だけだが、何か――自分と同じく両手に刀を持った――黄金の龍ような姿がエンジェウーモンの背の前に見えた。

 

 

「いくら仮想デジタル空間とはいえ、少し暴れすぎだぞ。エンジェウーモン、そして――ガイオウモン」
また新しい声が聞こえてきた。
その声の方向に――エンジェウーモンと狼一―─ガイオウモンは振り返る。

「神様……!」
「お主か……ファンロンモン」

――腕組をして立っている着物姿の幼女がいた。

 



見覚えるのある顔だ。
「お前は……」
幼女はほくそ笑む――
「ゴリモンが現れた時の……」
――のをやめ、口を開ける。
「あの時は世話になったな、狼一、いや――」
――お兄ちゃん。

 

 

「まぁいくらガイオウモンと記憶を共有してもわからない事だらけであろう。率直に言おう。我はデジタルワールドの神である。と、同時にお主、遊佐狼一の妹である」

 曰く神様。
曰くファンロンモン。
曰く妹。

「何言ってだんが全くわかんねぇなぁ……俺はそっちのアンゲウォモンに用があるんだよ!」
呼ばれたエンジェウーモンは肩をズリ落としながら、上空から幼女の隣に降りる。
そしてガイオウモンは、刀を構え直し、再び交戦体勢になる――
「私はエンジェーウーモンよ馬鹿!!」
――そう叫ぶ天使に一気に間合いを詰める――。
両手を上げ、二つの刀を同時に振り落した。

「やめんか――」

 ガシンッ!と激しく金属のぶつかり合う音。
ガイオウモンの刀を、天使の目前で静止させたのは、同じく刀。
持つのは、甲冑を身にまとう幼女――
「――といっておるじゃろ!!」
――が変化した黄金の龍。
今度は、その龍が両手に持つ刀をガイオウモンに振り落す。
再び激しい金属音がなると同時――
(……っ! なんて威力だっ――)
パワー勝負に負けを喫しガイオウモンの攻撃は防御のみに終わる。相手の二つの刀に押し出されるような形で、ふき飛ばされる。
ドスン。と音と共にガイオウモンは尻餅をつかされる。

「やはり……こちらの世界の容量ではオウリュウモンの姿が限界か、次は手加減しないぞガイオウモン、お兄ちゃん」

(狼一……とりあえず今は、攻撃をやめたほうが賢明じゃ……)
ガイオウモンが狼一の脳内で声を響かせる。
正直な話、今の形態――マトリックス・エボリューションとやらで、ガイオウモンの姿にってから、無敵になったような感覚を狼一を覚えていた。
しかし、記憶を取り戻したアグモン――もといガイオウモンの助言は適切であると、彼の記憶を知った今の狼一は感づく。
「わかった……」
狼一はシンクロを解除――狼一とガイオウモンは、人間とデジモン、元の二つの体に分離する。

「ようやっと話を聞く気になったようじゃの。ここまで人間が馬鹿だと思わなかったぞお兄ちゃん」
アグモンと同じく爺訛りの口調の幼女が言う。
「納得はしてねぇよ。ちゃんと話を聞かせろ。それに俺は末っ子で妹なんかいねぇぞクソガキが」
「餓鬼はどちらなのかのう」
「どう見ても手前のほうがガキだろこのチビが」
「こう見えてもワシの歳は千をゆうに超しているが……? まぁ人間に合わせるとだがな」
「だからわからねぇっつうの」
「すまんのう。一応言語レベルをこちらの世界の五歳に最適化設定してリアライズしたつもりだったのだが、どうやらもっとお主の精神年齢を考慮し下げておくべきだった……すまんの――」
「ぶっ殺すぞてめえ!!」
「おまわりさーん」
幼女がぼやく。
血管を浮き上がらせ狼一は生身で、彼女に歩みよるがアグモンに静止される。
「気持ちはわかるが落ち着け狼一……! お主も話があるなら始めろファンロンモン」
「そうだな。勿体ぶってすまなかったのう。全て教えよう。我々が何者で、デジタルワールドとこの世界の関係を」

 



この世界は、我々の住む世界に影響を与える表裏一体の存在である。

 



これだけ言っても当然わからんじゃろうな。
まず、人間の住むこの世界をリアルワールドと言い、我々デジタル・モンスターが住むのはデジタルワールドだ。
デジタルワールドを構成しているものは全てこのリアルワールドからのバックヤードを受けている。この世界で作られたものは構成を同じくして形状を変え、デジタルワールドにも同じく作られる。
それは物質だけはなく生物も例外ではない。
例えば――この世界で"遊佐狼一"が生まれれば、それにバックヤードを受けた"アグモン"がデジタルワールドに誕生する。
この二者は、互いを認識せずにはいるが、同一の魂を持つ運命共同体なのじゃ。
そして、リアルワールドとデジタルワールドの生物二者――同一の魂が会合する時、強大な力を発揮する。
デジタルワールドに危機が訪れた時にはこの力を利用し、その危機――我々の住む世界では闇の者と呼ぶ――を討伐する仕組みになっておる。
デジタルワールドに干渉できるのは、こちらの世界では子供に値する年齢の者のみが可能である。
よって闇の者を倒す時、我々の世界に誘致する巨大な力を誘発する魂――人間――は子供となる。
それを選ばれし子供と我々は呼んでいた。
デジタルワールドに危機が訪れるたびに、そういった選ばれし子供達がデジタル・モンスターとパートナーを組み、強大な力で闇の者を討伐していった。

 しかし、我々の世界とリアルワールドでは、時間の進み方がちがくてな。子供達はそうじゃな……こちらの世界で数年に一度の割合で、デジタルワールドに呼ばれる。
その中に、命を落とすものも少なくなかった。
――だがある時から。
一人の選ばれし子供が世界を闇から救った時。
リアルワールドに帰らずに、自らの魂を完全にデジタル・モンスターと融合させ、デジタルワールドに残留した少女がいた。
以降――人間の暦でいえば1995年――少女が五つでお兄ちゃんが八つの歳の頃より――デジタルワールドに闇の者が現れた時は、その少女とパートナーデジモンの融合体が全て討伐するようになった。
その者は、人間世界ではたったの七年だが、デジタルワールドでは何千年もの間、闇から世界を守り続ける。
うちに――神と讃えられるようになった。
それがファンロンモンであり、ワシであり、お主の妹じゃ。

 

 

「お、おれに妹がいた記憶なんてないし……そんなの、どこのテレビ局でもやってねぇぞ……?」
「まぁ、当然、そう思うじゃだろうな。しかし、進む年月が違う分我々の住む世界の文明の高さはこのリアルワールドと比べものにならん。今現在お兄ちゃんがワシの事をすっかり忘れている事などの記憶の改ざん、お主が暴れすぎたゴリモンとの戦いの場所も、我々が、仮想デジタル空間というデジタルとリアルの中間のような世界を作り復元したのが良い証拠じゃな」
「お前が今まで俺たちを攻撃してきたのか……?」
「んむ、それはちと違うな」
――神は話を続ける。

 



デジタルワールドには思いを具現化するという側面も持っておる事が最近解明されてな。
元々戦闘に生きる意味を見出す生物――デジタル・モンスターは、強大な力を得るため、自分のパートナーを強く欲した。
その思いが具現化し、近頃リアルワールドに、デジタル・モンスターがリアライズする事件が続出し始めたのじゃ。
そして、最近、現在のデジタルワールドの最大の闇であり、害悪であり――わしの過去の友――ガイオウモンを討伐する寸前――リアルワールドへの脱出を許してしまった。
お主はこちらの世界にリアライズした時、自らを最小限に圧縮化して我々から身をひそめたため、発見には少し時間がかかっての。
様子を見るためにも、めぼしいデジモンを泳がしておいたのじゃ。

 

 

「同時に過去の友と、かつてのお兄ちゃんに会えてわしは嬉しいよ」
幼女は口角を上げる。
「わざと戦わせてたっていうのか?」
「まぁ、そうなるな」
「赤神の奴もか?」
「あやつも注意してはいたのじゃが……まさかあそこまで暴走を始めていたのはちと予想外じゃった」
デジヴァイスを握る手に力が入る。
今すぐにでも――。
「もし――」
狼一は尋ねる。
「なんじゃ?」
「俺たちがここでお前に抵抗したらどうなる?」
「お主ともども、コイツをデリートするだろう。だが――」
幼女は闇夜の空を見上げる。
「お兄ちゃん。お主がおとなしくそやつを引き渡せば、デジタルワールドでフリーズ状態するに留まるだろう。」
「そんな事……信じると思うか?」
「嘘をつく理由がないじゃろう。今すぐここで、お主らをデリートする事はワシには容易い事なのじゃぞ。これ以上の――」
「黙れ――」
殺気に思わず幼女は、口を止める。
狼一は必至の思いで頭を回転させる。
「まぁ、いきなりこんなに話をされても困惑しているだろう――時間をやろう」
神は話を続ける。
「明日の同時刻、ここで待つ。それまでに決めておくのじゃな」
「……………………」
「じゃあの」
幼女は狼一に背を向ける。
「最後に――」
「なんじゃ?」
「――俺の妹、名前はなんていうんだ? なぜデジタルワールドに残ったんだ……?」

 

 

 選ばれし子供にも素質というものがあってな。
この世界でいう遺伝性というのも関係しているらしい。
再び訪れるであろうデジタルワールドでの闇の者との戦いに――。
お兄ちゃんを巻き込みたくなかったのだろう。
随分昔すぎてよく覚えておらんがの。
「私の名前は、遊佐芽衣(ゆさ めい)」
どことなく、神の目じりが下がったように見えた。

 

 

 狼一は、途中でコンビニに寄り、アグモンのリクエストで赤神の持っていたのと同じドロップ飴を購入し、帰路についた。
赤神は絶命したが、他の皆は明日には赤神の存在を忘れ、何事もなかったように普段の生活を始めるらしい。
――あいつ、俺の妹の術によって。
信じがたい話だが、自分には八歳の頃まで、三つ下の妹がいたのだ。
デジタルワールドに行っていなければ、本来なら来年、自分の卒業と同時に中学一年生になっていたのか。
そんな三つ下の妹は時間軸の違う異世界で、たった一人で世界を――自分を――守るために何千年と歳を重ねてきたという。
それだけの長い年月をかけた異世界の文明やテクノロジーだ。記憶の改ざんや、世界の修復など容易いものなのであろう。
そんなに簡単に自分の――妹の記憶までもなくなってしまうなんて。
到底理解不能だが、あのゴリモンと戦った森の修復を見るに、本当の事なんだろう。
今自分のいるこの世界のどこまでが本当で嘘なのか、よくわからなくなってくる。
いくら人類が積み上げてきた科学が発展しても、それをゆうに超えるものの存在があらわになった時、それは余計自分を混乱させるものになってしまうのだ。

 にしても――。
「まさか、お前がこんな極悪人だったとはな」
「……………今さら懺悔して許されるものでもない。あのハッカの味を最後に味わえればいい」
アグモンは、あの時狼一と共有化した時に舐めたハッカ飴の味が気に入ったらしい。
「なぁ――?」
「なんじゃ……?」
「お前の頭と繋がってもわからない事があるんだけどよ――」
「……?」
「お前は……力が欲しくてこの世界に来たのか、それとも……パートナーに――俺に会いたくて――きたのか?」
「わからん……な……」
「だよなぁ……」
狼一は、ハッカ味を探すために、ティッシュのうえに広げたドロップ飴の中から赤色の飴を選び、口に入れる。
「途中までは、世界を守りたいとか、そういうのあったりしたのかな」
「それはない……とは一概には言えぬな――やはり頭の中を見られるというのは嫌なものじゃのう……」
「やっとわかったのかよこの野郎!」
狼一は思わず笑い、アグモンの肩を小突く。
「なぁ、お前のその力、良い方向に使ってればどうなったのかな」
「そんな事、考えたってしょうもないだろう……過去は変わらぬ」
「まぁそういうなよ」
狼一は白いハッカの飴をとり、アグモンに渡す。
「世界を守る――か、どんな気分なんだろうな」

 

 ▽

 

 翌日、夜。

 ――ずっと守られ続けてきた――

「選択は決まったか?」
着物の幼女――神――妹――遊佐芽衣は問う。

 ――ずっと――

「あぁ、こいつは引き渡さないことにした」

「それは、ワシを含むデジタルワールド全てのものを敵に回すということじゃぞ?」

 ――これからは――

 狼一は飴を舐めながら、ニヒルに笑う。

 

 

上等だ。

 


 

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