アイズリミックス

参/病院リミックス


 
 青神とマッドレオモンとの対戦で、アキトはメダル9998枚獲得。
間もなく、アキトは次の9999枚目のメダルを手に入れ、見事メダルのカウントストップに到達した。



 相変わらず薄暗い部屋を、壁にかけられた幾つものディスプレイが照らす。
 その前のデスクに深く寄りかかっているのは、ピンク色の髪が特徴的なコハルコ。そしてその後ろには朝食のスニッカーズをかじっているアキトが立つ。
 二人とも揃ってディスプレイの一つに映し出されたテレビの映像を眺める。

「あの人は相変わずめちゃくちゃな強さだな」
「そうだねアキトくん。一仕事終えたらサインもらいにいかないと」
「だな」

 二人が見ているのはデジタル・モンスターVRのプロテイマー同士の戦い。
 アキト、コハルコ、二人と、ある縁があって知りあった人物が、強豪相手にも関わらず無双ぶりを発揮した姿が映し出されている。あまりの強さに試合は早々に終わり、インタビュー映像に切り替わった。
 
 アキトはスニッカーズを口の中に放り込みマウンテンデューで喉へ流し込んだ。
 コハルコは、TVの映像を消しマウスを操作する。
 数あるディスプレイが一つになり、巨大な映像を映し出した。
 これから、実行する二人の作戦図。

「三年の、アキトくんにとっては四年の……この戦いがもうすぐ終わるね」



「これが最後のおさらい」

 ナツミは無敗で9999連勝。メダルカンストボーナスを獲得し、特典を開いて間もなくしてこと切れた。
 一体、ナツミは何を見て、なぜ死んだのか。
 がむしゃらにその軌跡を追いかけたアキトであったが、ナツミと同じ最後を送るわけにはいかない。この二年間、ずっと連勝記録を伸ばしながらもう一つ、その先の打開策を隣にいる天才ハッカー、コハルコの協力の元、模索し続けていた。
 そして、見出した答え。

「つなげるよ」

 二人とも電脳ゴーグルを装着し、コハルコは大型PCから伸びているコードをアキトのゴーグルに接続。キーボードを打ち始めた。
 ナノモンがPCから浮き出てきてアキトのゴーグル周りをいじりだした。
 ディスプレイ一面に浮き出る地図。
 そして赤点。

「やっぱり、場所は変わってないみたいね」



『デジタルワールドへの誘致権利を得る事が出来ます』
 運営が打ち出しているこの言葉。
 そしてコハルコが出会った時に言っていた言葉。
『ありうるんだよ。9999枚カンストした時に、何かとんでもない事が起こるということが』

“ナツミは、デジタルワールドに持ってかれた”



「再度確認してみても、未だに本当かどうかわからないものね」
「それを今から確認しにいくんだろ」

 9999枚。メダルをカンストした状態になったアキトのゴーグルはとある場所のサーバーに繋げられていた。
 そこに謎を解く鍵がある。

 コハルコ曰く「私とナノモンのスーパーハッキング能力で得たデータ」によると、ナツミ以外にもメダルカンストをした人物は何人か“いた”らしい。
 しかし、全員原因不明の急死をしている。
 もし、その死がデジタル・ワールドに行く条件だとしたら、考えられるのは一つ。
 
肉体と分離して精神だけがデジタル・ワールドにいっている。

そのために、カンストしたテイマーはとあるサーバーへと自動的に接続されている。
ならば。
「そこを叩き潰す」
「潰しちゃったらダメなんじゃない?」
「じゃあ、つつくか?」
「そんぐらいにしときましょ、さぁーってと」
 コハルコは今の今までの下着姿から半そでの黄緑のパーカーと白いスカートを着て、バックパックを背負った。
「本当に、お前もいくんだな」
「行くよ。きみに何かあったら私は今後ずっと自分の人生を呪うよ」

 コハルコは、遠隔でアキトに指示を出すサポーター。
 今までの三年間ずっとそうだった。

「ずっと椅子に座る事が多くてさすがにお尻が痛くなってきたしね。それにこれも使ってみたい」

 コハルコが見せるのは腕時計、ではなく小型スマートフォン。
 しかもワイヤレスで電脳ゴーグルと連携している。
デジモンVRを始めた頃――アキトとナツミがゲームを始めた頃より大分進歩した代物だ。



「ごめん、この自転車一人用なんだ」
「ステップに立つから大丈夫だよ」
 アキトが自転車を漕ぎ、コハルコは後輪のサイドに足を乗せて、手をアキトの肩に伸せて立つ。

 目的地は自転車で行ける距離にある都内の廃病院。
 なぜこんな場所に自分の電脳ゴーグルが接続されているのか、全くを持ってわからないが、事実なのだ。
 ここにいけば――何かがわかる。



『はたから見ていると君たちはカップルにしか見えないのだが』
 男女二人のペアで自転車に乗っている自分たちの姿に、アキトは先ほどテレビに出ていた最強テイマーに言われた言葉を思いだす。
 たしかに、他人から見ればそう見えるのかもしれない。
 しかし、アキトはコハルコをそういう対象で見た事はないし、見ようとしないようにしていた。
 この三年間、最初出会った頃よりは彼女の特性を少しは理解したつもりだったが、肝心な所はまるでわかっていない。
 彼女がなぜ、一人で暮らしていて、そして自分との共闘生活を始めたのか。
 まるでわからない。
 それに俺には――。



 目的地にたどり着く。
 調べたところによると、この病院は老朽化を理由に移転。現在は廃屋となっているが、取り壊しは行われていない。

「さて……と」
 コハルコは仮想立体キーボードを呼び出す。半透明のキーボードをタイピングし、アキトとコハルコのゴーグルに、この建物の立体映像が浮き出た。
 緑線のホログラフィック映像は回転を始め、最上階に赤点を落とし回転を止めた。
「場所は、この病院の最上階、一三階の部屋みたいね」
「本当に、ここで間違いはないんだよな」
「うん、たぶんね」
「どうやって入るんだ」
 ガチャガチャとドアノブを、捻っても開く気配はない。
 硬く閉ざされた入り口の扉。
「一度やってみたかったのね」
「なにを?」
「タックルしてドアをバコーンって倒す奴。サスペンスドラマで言えば密室殺人が行われた部屋に無理やり入るシーンだね」
「……」
 アキトは乗り気ではないが、今はそんな事を言っている場合ではない。
「よし、じゃあ、一、二、三でいくぞ」
「わかった」
 二人は横向きになり、構える。
 一
 二
三……!
 ドアが開く。
二人がまだタックルをしている最中に。
 衝突の行き場をなくした、二人はドアをすっぽ抜け、勢いあまって病院内に倒れ込む。
 タックルの意味はなく、第三者が、中からドアを開けたのだ。
 姿勢を立て直し、見上げると人が立っている。
 警備会社の制服に包んだ大柄の男だ。
「きみたち、ここに何しにきたんだ」
(廃屋なのになんで警備が中にいるんだよ……)
まずい事になった。不法侵入がこうまであっさり警備の者にバレるとは。
一瞬の沈黙の後、口を開いたのはコハルコだった。
「お、お見舞いに……」
(それはないだろ流石に!!)
「ここには今、患者などいない。とっとと子供は帰るんだ」
「許可証? みたいのも持ってるんですが」
「そんなものはない」
「おっかしいなぁ」
 コハルコはバックパックもおろし、中を物色し始める。
(こいつ……まさか……!?)
 コハルコの手がバックパックから抜けると同時、大きく男の胸部目がけて振りかぶった。
 バリバリと甲高い音を響かしながら、それは鳴る。
 黒いTVのリモコンのような形をしているが、先端は火花を散らしている。
 強力な電流が流れる護身用の武器――スタンガン。
 警備の男があっけにとられている間に、コハルコのスタンガンは男の胸部に命中。
 すぐさま、コハルコはバックパックからスプレー缶を取り出す。これも護身用の武器で、相手の目を潰すもの――催涙スプレー。
 中身の液体を間髪いれずに男の顔に散布する。
「アキトくん! これ!」
 男が悶絶している間、コハルコが次にバックパックから取り出したのは、筒状の棒だ。
 それをアキトにヒョイと投げる。
 筒を受け取ったアキトは瞬時にしてそれが何かを悟る。
 勢いおく棒を下に振ると棒はスライドし、引き延ばされた事によってその長さを増し、武器になる――警棒だ。
「アキトくん、今だよ!」
(ごめんなさい……!)
 男の頭に思い切り警棒を振り落す。
 悶絶し、叫んでいた男の声は消える。
倒れた。
「これ……死んでないよな?」
「こんなんで死んでたら警備会社の社員務まらないよ。」

 男が目覚める前に二人はエレベーターに向かう。
 どうやら廃屋にも関わらず、エレベーターは起動しているみたいだ。
 やはり、この病院は何かがおかしい――。
 一三階のボタンを押す。
 エレベーターは上昇。
……一二…………一三……。
 扉が開く。



 一瞬、意識を失っていた警備員は起き上がる。しかし電流のショックその他もろもろで思うように体が動かない。
 (……早く……応援を呼ばないと……)
無線が入る。
「すいません、二名の男女の侵入を許してしまいました。至急、応援を送ってください……!」
『その必要はないそうだ』
「え?」
 男は呆気にとられる。
『なにやらその二人は雇い主の客人、という事らしい』
「そんな馬鹿な……! あの二人は強行突破してきたんですよ」
「俺にもよくわからんが、何やら餌がどうとか言ってたなぁ。とりあえず“一番お上
“のあの方直々の連絡だ。 間違いはないだろう」



異常だった。
 目の前に広がる光景はあまりにも――
 

 
 1フロア全てぶち抜いた巨大な空間。
 電気のつけられていないその部屋を、全方位の壁に設置されたサーバーが囲む。
機械のシステム光がボンヤリ部屋を照らしている。おぞましい機械の量だ。
 そしてその全サーバーから生えたコードが中央に位置するのベッドに伸びている。

全てのコードは電脳ゴーグルに接続されている。しかし、その電脳ゴーグルは通常のものとは決定的に違う。バイザーが透明でなく、全て目を覆い隠してしまっている。その変わり、両端に小さいカメラのようなレンズが取り付けられていた。
ゴーグルをつけているのは――
幼女。
ゴスロリ調のフリルのついたドレスに身を包み、ベッドに座り、見えているのかわかからないその電脳ゴーグル越しにアキト達を見ている。

「いらっしゃい、怪物さん」

 幼女が喋る。とてもあどけない声を響かした。


 
「怪物……って。お前一体ここで何してるんだよ?」
「怪物退治よ。あなたもかわいそうだけど排除するよ」

 瞬間。
 二人の電脳ゴーグルがアラートを鳴らす。
「バトル通知……だって!?」
 電脳ゴーグルのバイザーを装着。
「これは……」
「なにやらやばい予感がプンプンするね」

 無数にリアライズされたデジタル・モンスターの姿。
 どれも同じ姿かたちをしている。
 全体を茶色いボディにつつみ、短い手足をでかくてごついエンジンのような胴体につけ、その胴体の目が、全員こちらを見つめていた。
【ガードロモン Lv四 ワクチン】
 アキトのサイバードラモン、コハルコのナノモンが自動的に飛び出す。
 「しかもこれって……」
 無数のガードロモンの頭の上に浮かぶテイマーマーク。

「これ全部あいつが操作しているっていうのかよ」
そんな無茶な事――可能なのか?!
「アキトくん、電脳ゴーグルの電源を切っても、ここから逃走しても自動判定でメダルは0になっちゃうよ」
「ということは……」
「とりあえず今戦うしかないよ!」
「っ……!」

 アキトとコハルコは前進。
 同時、ガードロモンの群生がこちらに向かってきて、進路を遮る。

「どけえええええええええええ!!」
 
 黒い竜人――サイバードラモンが目の前に立ちふさがったガードロモンに思い切りパンチをお見舞いする。
 そのまま相手をふっとばし、ガードロモンをデリート。
 しかし、こちらに向かってくるガードロモンは数を絶たない。

「こいつ! 意外と脆いぞ!」
「キミにとってはそうみたいね。私はいっぱいいっぱいだけど!」

 相手から向かってくる事を逆手に取り、次々とサイバードラモンはガードロモンを返り討ちにしていく。
 アキトにとっては飛んで火にいる夏の虫であった。
 途端。
全ガードロモンの動きが止まり、両腕を突き出した。

「これは……まさか」

『ディストラクショングレネード』
 合唱だった。
 相手の必殺技ゲージが溜まり、数が大分減ったといえ何体ものガードロモンの腕から同時に複数発射されたミサイルはとても数えきれない。
 それが全てアキト達の方面を降り注ぐ。
 一つ一つガードするのは間に合わない。

 ミサイルが全て直撃。
 あたりを粉塵が包みこむ。



「メダルカンストテイマーを舐めないほうがいいぜ」

 粉塵が晴れていく。

ナノモンの前に、サイバードラモンが腕をクロスさせ体から煙を出しながら――
 “立っている”
特殊ラバー装甲が、無数のミサイルの攻撃を凌いだ。
 おまけに――。

「必殺技ゲージを溜めてくれてありがとよ!」

 サイバードラモンから発射された超電磁波は全てのガードロモンの機能を停止。
 次々とガードロモンは体のあちこちでショートし、爆発を起こし消えていった。



 アキト、コハルコは幼女に向かう。
 近くで見ると改めてその不気味さに息を飲む。

おびただしい巨大サーバーの数。
目隠し状態の電脳ゴーグル。
それられを全て装備した幼女。
全てが異常だ。

「怪物さんたち、なかなかつよいのね」
「おまえはいったい――」
「でも、これでおわり」



「たくさんお食べ」
 少女はそう言い、微笑んだ。



 突如としてアキトは強烈な眩暈に襲われた。
(なんだ……これはいったい……どういうことだ……)
 視界が黒色に染まっていく。

「ア……キ、トく――」

 コハルコが自分を呼ぶ声が遠くなっていく。
(だ……めだ……)
 アキトの意識が完全にブラックアウトする。



 何もない空間にいた。
 地面は、黄緑に光る線が引かれておりタイル上の床を形成している。
 アキトはあたりを見渡す。 
自分が立っているこの電子的な床の他には、どこまでも黒い世界が続いているだけだ。
 (ここは……どこだ? コハルコは?)
「こっちだよ、怪物さん」

 振り返る。
 幼女がいた。
 先ほどの目隠しゴーグルはかけられていない。
年相応の普通の可愛らしい女の子だ。
 しかし、隣に立つ異形の者の姿が、彼女と陰と陽のコンテラストを生み出していた。
 
 巨大な機械龍。
茶色く錆びたボディに、ごつごつしい兵器を背負っている。
 下あごが大きく発達し、今にも咆哮を上げそうな迫力の表情でこちらを睨む。
【ラストティラノモン Lv6 データ】
(こんなデジモン……見た事ないぞ……)
「さっきから怪物怪物っておれ――」
 話などする気はないらしい。
 ラストティラノモンは手のひらをこちらに向けレーザーを発射。
 間一髪でアキトはそれを避け、サイバードラモンをリアライズ。
(!?)
 アキトは異変に気付く。
 反射的に、サイバードラモンを呼び出したが………彼女同様、かけていたはずの電脳ゴーグルがなくなっている。
「君の友達にも邪魔させないよ」
 ラストティラノモンの腕からレーザーが発射。
 眼球操作――動く。
 目を横にそらし、それに準じてサイバードラモンもスライド、攻撃を避けた。
「電脳ゴーグルがなくても操作出来るのか……ここは……」

「これはどう」

 ラストティラノモンは両手を使い交互に、レーザーを発射する。
 サイバードラモンは後方に飛ぶ。
 何もない空間。だからこそ、ここでは小手先の技術は通用しない。
 100%戦闘のみのセンスが問われる。
「何だがわからないけど、こんなとこで負けるわけにはいかないんだよ……」

 急遽始めった戦闘で頭が混乱するアキトであったが、この戦いには負けるわけがいかない。そう直感で感じていた。
 メダルが0になる云々の前に、この少女は……。
 サイバードラモンは前進。
 人の二倍ほどの大きさのサイバードラモンを攻撃の的にする事は、あのビルほど巨大な機械龍にとっては、近距離であるほど難しい。
そう踏んで至近距離戦に持ち込もうとする。

ラストティラノモンに向かって走るサイバードラモン。
次々に発射されるレーザー。
眼球操作でその全てを動きに対応。
避ける。
近づく。
「スピーダーの名前は伊達じゃないんだよ!!」
 機械龍の胸部目がけて、飛躍――パンチ――命中。
 しかし、ラストティラノモンはひるまない。
 その巨体を大きく捻る。背を向ける形で尻尾がしなり、サイバードラモンに衝突。竜人は飛ばされる。
 大幅にダメージを受けパラメータがガクッと下がり、レッドラインに突入する。
「コハルコ!回復プラグインだ――」
 言ってから気づく、今は自分一人でサポーターのコハルコはいない。
 アキトはすぐさま自分で回復プラグインをサイバードラモンに投与した。
 残りの使用可能プラグインはいつもの対テイマー戦と同じく三つまでと表示されている。

「こいつ……強すぎる」



「アキトくん! アキトくん!」
 目の前で突然倒れ込んだアキトを揺さぶりながらコハルコは叫ぶ。
 最悪の事態が頭によぎる。
 アキトは話に聞いていたあの幼馴染みと同じ末路を辿ってしまうのではないか。
 しかし、例の特典ボーナスは開いていない。
 目の前の幼女に目をやる。
 (この子がすべての元凶なの……?)
 いくらアキトのゴーグルにハッキングをかけても何も反応がない。
 今はただアキトの名前を呼ぶことしかできなかった。

「いくら、呼んでも無駄じゃよ」
 突然後ろから聞こえた声にコハルコはすぐ振り返る。
「あなた……は……」



 プラグインは全て使い果たした。
 HPゲージは半分以下になっている。しかし、攻撃の手をやめるわけにはいかない。
 
ラストティラノモンが前かがみの姿勢をとった。
口、両手、そして背中にとりつけられたキャノン砲全てが、粒子を集め始める。
ゴォオオという、けたたましいエネルギーの充電音。
(――くる!)
必殺技だ。
全ての発射口からレーザーが飛び出す。それが一つに交わり巨大な太いレーザーとなって、こちらに向かってくる。
しかし、これだけの巨大なレーザーだ。足場を固定するために、体勢は変えられないだろう。
(ならば!)
単純に避けるしかない。
サイバードラモンは浮遊し、上空へ向かう。
「……間に……あえ!!」



 しわのある顔。
 鼻の下に白色の髭を伸ばし、手には杖をついているスーツ姿の老人。
 頭には電脳ゴーグルがかけられていた。
体からあふれ出んばかりに感じる覇気。
 
 自分達が数年の人生を全て注いできたゲーム――デジモンVR
その大元の大元――WorldTruth社
 御年80を超えるというが、若さすら感じさせる自信に満ちた表情。
 トップにいる人物――無限冬樹
 通称――
「ゲンナイ……?」
「よくここまでこれたのう」
「これは……一体どういうなんですか、返答次第では老人相手でも手加減しないですよ」
「ほっほ、それは怖い。なぁに時期がきたら君の恋人は無事帰還させるよ」
「私は今この状況、そして今まで突然死してきた人たちの事を聞いてるんですよ」
「今、彼は私の孫、無限アイの使用している、私が人生をかけて作った最強のデジモン――ラストティラノモンと戦闘を行っておる」
「なんのために……?」
「最強をより最強にするために、連続勝利数の上限に達したユーザーの使用するデジモンのデータを餌として吸収するためじゃよ」
「今まで、そうやって何人もの人を……殺してきたの?」
「殺す。とは人聞きが悪い。彼らは、自らの願いでデジタルワールドに旅立った。これはたまたまそのユーザーの一人がここまでたどり着いてしまったから、ついでまでにデータを吸収させてもらっているだけじゃよ」
「やっぱり、あなたの会社は……電脳化に成功してたのね。でもそんなの……やっぱりただの人殺しだよ」
「事前に伝えればよかったのかい?」
「そういう話じゃない。あなたの目的は一体なに?」
「それは――」



 間一髪、サイバードラモンは極太のレーザーの攻撃を避ける。
 真下から強い突風にも似た衝撃派がサイバドラモンに吹いた。
「あっぶねぇ……」
 油断した――。
 ラストティラノモンは、攻撃がはずれた瞬間、すぐさま体制を変え突進――見かけより大分素早い……!
 その巨大な腕で蠅でもつかむように、サイバードラモンを手中に収める。
「……っ!」
 不覚すぎる不覚。
 顔を出すような形で、ラストティラノモンの手に捕まれたサイバードラモン。
 握られているだけで、HPゲージが減っていく……。
 そして、その手の平のレーザーの口が開く。
 戦いが――終わる――

「まだだ!」

 ――事はなかった。
 掴まれてる体勢だが、放つことができた“イレイズクロー”
 電磁波攻撃に、機械製のラストティラノモンの腕は火花を散らす。
 握っていた手が緩み、サイバードラモンは浮遊して脱出。
 右手を潰すことができた……!
 しかし、左手、そして右手の故障を補うためからか、口からレーザーを交互に繰り出す。
 発射、発射、発射。
 避ける、攻撃、避ける。
 ヒット&アウェイ戦法でジリジリとラストティラノモンに攻撃を続ける。

 避ける―攻撃――避ける――攻撃――避ける。
 今まで、スピーダーとして戦ってきたどの対決よりも速い――高速――光速。
 アキトは気づく、眼球操作を超えた、脳から直接自分のイメージ通りに動く竜人。
 今までにはなかった。まるで、シンクロしているような――。



 進化の光。


 
ずっと疑問に思っていた。
 なぜ自分のデジモンはLv6になれないのか。
 ある種のバグなのかと、疑っていたが、これは――バグ以上の異常――奇跡なのかもしれない。

 サイバードラモンを円形のテクスチャが囲み、破裂。
産声――咆哮を上げた。
竜人は竜の王となる。

 そのサイズは目の前に対峙する巨大なラストティラノモンにも匹敵。紫色の髪をなびかし、その上から黄色いとさかをつけた兜を被る。両手につけられたのはかぎ爪。そして特に目を引くのが体に至るところにつけられた光輝く円形のノコギリ。

 サイバードラモン進化――
 ――【メタルドラモン Lv6 ウイルス】

「進化が遅すぎるんだよ相棒」

 メタルドラモンの巨大な鍵づめがラストティラノモンの腹部に突き刺さる。



「デジタルワールドで、冒険がしたかった」



ネットワーク上に存在するデジモンが居住する世界、デジタルワールド。
WorldTruth社が発見した時からゲンナイは、次第にその世界に行きたいと思いを馳せていた。
歳も老いてきた時、富を手に入れて彼が次に欲したのは永遠の命。
 そんな折、開発が進み始めた、電脳化の技術。
 自分の夢の活路をそれに見出し、強く渇望するようになっていた。
メダルカンストをしたテイマーを実験体――そして共にデジタルワードに行き冒険をする選ばれし子供達としてデジタルワールドに連れていった。


 
 コハルコは絶句する。
「ワシはもう先が長くない。この世界にもこの肉体にも未練はない」
「……そんな……こと……って……」
「どうやらアイの奴はしくじったみたいじゃの、まぁいい、少し予定は早まるが私もあちらの世界へ旅立つとするかのう」
 ゲンナイは、立体キーボードを操作。
「だ、だめぇ!!」
叫び、彼の元へ駆け寄るコハルコだったが、間に合わず。

 ゲンナイはその場に倒れ込んだ。





DigimonRemixSeries『EyesRemix3/ hospital-remix』→END
To Be Continued →『EyesRemixEND/eyes-remix』

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