1997SUMMER


 ドームのように広がる青空、長く育った積乱雲、木霊する蝉の声、蒸しかえるアスファルト──夏まっただ中。
 
「勝ったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 交通の量も多くない閑静な住宅地。その道端に突如として響きわたる少年の叫び声。
 半そで短パン、小学生高学年ほどの容姿の少年は、ウォレットチェーンが架けられた万歩計のような物を手に持ち、ガッツポーズを決めた。
 すると間もなく、彼と少し離れた場所にいた別の少年が駆け寄ってくる。

「いやぁ、やっぱり強いねムラサキくんは」
「まぁ同じアグモンでもマサトより俺のほうが先にトレーニング詰みまくってるしな」

 小走りで向かってきた少年、マサトは中性的な顔立ちをしており、華奢で背も低い。
 ムラサキと呼ばれた少年と並ぶと、幾らか幼く見える。
 
「にしてもこの攻略本に書いてあった遊び、疲れるだけだな……」
 ムラサキは額の汗を拭う。
「そうだね」苦笑するマサト。「対戦が始まった瞬間にお互い逆方向にダッシュする意味がわからないね」

 二人が手に持っている電子玩具は、二カ月ほど前に発売されたヴァーチャルペット。
 画面上で奇妙な怪物を育て、他の怪物と通信対戦が可能になっている。
 このゲームのユーザーは発売して間もなく蜘蛛の子を散らすように拡散していき、今やこの地域の小中学生男子の大半がこのゲームに熱中していた。

 先程のムラサキが叫んだ理由は、最近発売されたデジタルモンスター初の攻略本に書かれていた遊びで、対戦が始まった瞬間に互いが逆方向にダッシュし、勝負の結果がわかった時に離れた対戦相手に結果を大声で叫び合うといった陳腐な遊び方であった。
 本来ならば負けたマサトのほうの叫び声も聞こえるはずだったが、引っ込み事案の彼の性格がそうさせなかったのであろう。
 
「どうだマサト? デジモン楽しいか?」
「うん! やっと育て方もわかってきたし、デジモンも可愛くて好きだよ!」

 二人は同じ学校に通っており、以前学校の宿題で、『あなたの親友についての作文を書きなさい』という課題が出た時、互いが互いの事を作文にした。そんな間柄だ。
 ムラサキは兼ねてから親友のマサトにデジモンを始めるよう勧められていたのだが、購入が出遅れ、数日前にやっとデジモンの飼い主になる事が出来たのである。

「そうだなぁ」ムラサキはデジモンを短パンのポケットに入れる。「慶応公園に行って、他の同じくらいの強さのデジモンと対戦しにいこう!」
「そうしよっか、でも対戦してくれる人いるかなぁ……」
「いるいる! デジモン育ててる奴は皆友達みたいなもんだって!!」

 ムラサキは半ば強引にマサトの手を引っ張り近所で一番でかい慶応公園へと向かった。
 少年二人がいなくなった住宅地は蝉の声だけが鳴り響く。


 ▽

 慶応公園はムラサキの住む地域では一番でかい公園であり、今のような夏休み真っ最中の昼間は子供達でごった返している。

「おっ、やってるな!」

 ベンチの周りに屯する小学生達の輪を見つけて、ムラサキは晴れ晴れとした顔を浮かべる。その少年達が挙って手に持っているのは、デジモン。

「でもアレ、違う小学校の人達だよ……? 大丈夫かなぁ」マサトは眉と顔を下げる。
「大丈夫だって! もし本当に気が合わなそうって言うならやめとくけど?」

 ムラサキの言葉にマサトは首をブルブルと横に振り、顔を引き締めた。

「うん! そうだよね! 折角デジモン買ったんだし行こう!」

 ニヤリと笑い、ムラサキはマサトとそのデジモンをやっている集団に向かっていく。
 ムラサキは知っていたのだ。マサトは引っ込み思案だが決して人が嫌いなんて事はなく、一緒に遊べる友達を欲している事を。

「おーっす! デジモン勝負しようぜ!」
 ムラサキの挨拶に、屯していた少年達は最初こそ少し戸惑っていたが、ムラサキとマサトの持つデジモンを見るなり、

「お前ら今、何モン?」

 すぐに受け入れてくれた。
 勝負を繰り返していると自然と皆が笑顔になっていく。

「てか、お前ムラサキじゃねーか?」

 その中の一人の少年がムラサキの顔を見て言った。

「おっ? なんで俺の名前知ってるんだ?」
「なんでってお前、ダイエーでこの前やったデジモンの大会で優勝した奴だろ??」
「はっは〜ん! なんだお前あの大会いたのか!」
「知ってる知ってる! お前あの大会で完全体で優勝してたかんな。 ここらじゃまだ完全体まで進化出来た奴いないから、ちょっとした有名人だぜ」

 ムラサキはワザといやらしく、鼻高々に声を上げる。
 完全体――このゲーム、デジタルモンスターの進化ルートの最強形態。
 ムラサキは誰よりも早く、自らのデジモンをこの形態にまで進化させた。
 そして、駅前のスーパーで先月行われたダイエーカップにて、見事優勝を果たしたのだ。
 
「あの完全体って何モンって言うんだ?」
「あぁ、この前出た攻略本でわかったんだが、メタルグレイモンっていうらしいぜ」

 おぉ〜と感嘆のざわめきが起こった。

「今度の10日にまたあそこで大会やるけどでんのか?」
「あたぼうよ! まぁ今はもうメタルグレイモン死んじゃったから、また育てるけどよ」


 ▽

 すごいなぁ、ムラサキ君は。
 純粋にマサトはそう思った。
 自分とは正反対の性格で誰とでも仲良くなれ、デジモンも強いムラサキをマサトは尊敬している。
 そしてそんなムラサキが自分と仲良くしてくれる事がとても嬉しかった。
 今もこうやって臆病な自分と知らない人達との懸け橋になってくれている。
 自然とマサトの顔から笑みが毀れた。


 ▽

「うわぁ嫌な奴が来たよ……」

 一人、少年が呟く。
 デジモンやダイエーカップの話や対戦で盛り上がる中、笑顔が絶えなかった少年達の顔が次々と曇り始めた。
 少年達の視線の先を見たムラサキは、すぐになぜか理解した。
 そこにいたのは市民プール帰りで、水着バックを蹴りながら歩いてきた小太りで背の高い少年──アツシが近づいてきたらだ。
 アツシの事はムラサキも知っていた。
 ここらへんじゃ意地悪な性格の代名詞と知られた少年。
 その性格の悪さから友達は少ない。一部のかわいそうな舎弟がおり、自分より年下の子供や違う小学校の生徒にまで絡み、遊びを強制させる事で有名なのである。
 だから一つ下で四年生であるムラサキは違う小学校に通っているにも関わらず友人の話題などでその顔は知っている。
 そしてムラサキとアツシはお互いを面識する機会が先月にあった。

「よぉ! 誰かと思えばムラサキじゃねえか」
「元気してたか?」

 ムラサキはアツシを軽蔑し、甘んじているのでけだるそうに返す。

「元気じゃねぇよ。 お前にダイエーカップの決勝で負けてからずっとな。 大体完全体で大会に出るなんてズっこいんだよ」

「ズルくねーよ。 そんな事言ったら下級生のデジモン、しかも成長期ばっか取り上げて無理矢理闘わせて勝率稼ぎしてたお前のほうがズルいだろ」

 ムラサキの挑発的な対応にマサトや周りの少年達は息を飲む。

「ムラサキくんやばいよ」

 マサトが小声でムラサキの袖を引っ張る。
 しかし、「大丈夫だ」とムラサキはアツシから視線を外さない。自分が一生懸命育てたデジモンがズル呼ばわりされたのが気に食わなかったらしい。

「言ってくれるじゃねぇか。デジモンは対戦して遊ぶゲームだろ。弱い奴が悪い。俺も今グレイモンだからコイツを完全体にしてお前のデジモンけちょんけちょんにしてやるよ」付け加えて、「お前目真っ赤だぞ? 涙拭けよ」

 フハハとアツシは両隣に立っている舎弟、ひょろい眼鏡の少年とでムラサキをあざけ笑う。

「ざっけんなよテメェ!!」

 ムラサキはアツシに飛びかかろうとしたが、周りの少年達に制止をもらう。

「ヒイイイ」とアツシは情けない声を上げる。コイツは威張ってる癖にかなり弱い奴だった。

「なんだよこえーな……行くぞ」
 
 アツシは舎弟二人を連れてムラサキ達から遠ざかっていった。

「クソウ……腹立つなあいつ……」
「でもムラサキ君すごいねあんな風に追い返しちゃうなんて」
「あぁ、アイツは雑魚だからな。 でもこうなったら」ムラサキはデジモンを握りしめる。「次のダイエーカップまでにこいつを絶対完全体にしなくちゃな……」
「そうだね! ムラサキくんなら絶対勝てるよ!!」
 マサトの目から輝きがこぼれる。

「そうだな、一緒に頑張ろうぜマサト!」

 俺達もやるぞ! と周りの少年達も賛同し、ムラサキ達はバトルに勤しんだ。


 ▽

「クソが……」

 アツシは公園の隅のベンチで怒りを顔に蓄積していた。

「アイツら生意気でしたねアツシ君、また他の完全体になった奴みたいにデジモン奪ってリセットボタン押しちゃいましょうよ」 

 眼鏡の少年が営業マンのような嘘くさい笑顔を浮かべアツシに提案する。

「いや……そんな事じゃ俺のこの怒りは収まらねぇ……もっと愉快な復讐じゃねぇと」 

 アツシは怒りで震えた拳を強くベンチに叩きつける。

「そうだ、これだ」

 急にアツシの顔が晴れやかになり、不気味に笑う。

「コイツは最高に愉快だぜ。 アイツらにちょっくら赤っ恥かかせてやる」


 ▽


 陽がオレンジ色に染まりかけた頃、ついにムラサキとマサトのデジモンはDPを使い果たし、今日はもうバトルが出来ない状態になった。
 ムラサキ達は公園で出会った少年達とまたバトルする約束をして別れた。

「今日はこんなところだな、俺の経験上、明日あたりに成熟期になるだろうな」
「かなり闘ったね……! やっぱデジモンって楽しい!」
「だろ!?」

 ムラサキはマサトが見知らぬ少年達と楽しそうにバトルをし会話してた姿を見てとてもうれしくなり、デジモン勧めてよかったとしみじみと感じた。
 そして帰路を辿ろうとした時だった。

「お兄ちゃん達」

 突然、まだ卒園したばかりのような小学生低学年の子供が二人、ムラサキ達に話しかけてきた。

「ん? どうした?」
「お兄ちゃん達デジモン持ってるでしょ? やらせて!」
「僕にも!」

 急に子供達はムラサキ達のデジモンをイジらせてくれと言ってきた。この子達はデジモンを持っていないんだろうか。しかしデジモンはムラサキやマサトにとって大事な宝物であるので、すんなり渡す気にはなれなかった。

「ごめんなぁ、これはお兄ちゃん達の大事なものだからそれは無理かなぁ?」

 ムラサキはバツの悪そう顔を傾ける。

「ムラサキくん、ちょっとくらいはいいんじゃないかな?」
「う〜ん……でもなぁ」

 マサトの提案にもムラサキは乗り気になれなかった。

「ふええええええええええん!!!!!」

 !? 困り果てた顔をしている最中、突然子供二人の泣き声が、凄まじいボリュームで公園のBGMを蝉の鳴き声から上書きした。
 幾ら二人が宥めても一向に泣きやまない。

「わかった! 触らしてあげるから!」

 痺れを切らしたムラサキが渋々折れると、やったー!と二人同時に発せられた声がハモった。
 急に泣くのをやめた子供達は、半ば奪い取るような形でムラサキ達二人のデジモンを手に取り、ボタンを押し始める。
 
「おい、肉とプロティンはあげるなよ」

 なんなんだよコイツら。
 ムラサキは困り果て疲労困憊な顔をしている。

「まぁいいじゃないムラサキくん、返してもらえれば」
「そうななのかなぁ……」
「それはそうと、次のデジモンの大会っていつなの?」

 マサトはムラサキの気を逸らせようとしてくれたのであろうか。ダイエーカップの話を切り出した。

「ん、来週の日曜、八月十日だぞ、もちろんマサトも出るだろ??」
「僕も!?」
 
 マサトは目を丸める。

「あぁ、折角デジモン買ったんだし出るしかないだろ」
「大会……大会かぁ。 僕もムラサキ君みたいに良い結果出せるかわからないとアグモンと一緒に頑張ってみるよ!」
「大会の時はアグモンじゃないと思うけどな」
「ハハ、そっか。 それまでには強いデジモンに育てられるように頑張るよ!」

 マサトは健気な笑みを浮かべる。

「そうだな! でもぶっちゃけ俺の経験上、次の日曜までに完全体になれるか怪しいんだよなぁ」
「大丈夫! ムラサキ君のデジモンなら完全体じゃなくても絶対優勝できるよ! そんな気がする!」

 マサトの応援は全く根拠のないものであったが、ムラサキはなぜだがマサトに言われるとそんな気がしてきた。

「そうだな! とりあえず頑張るっきゃない!」
「そうだー!」

 ムラサキとマサトは夕陽をバックに、腕をクロスさせ、ダイエーカップへ意気込んだ。

「お兄ちゃん達ありがとう」

 忘れかけてた頃に、散々弄りたおして満足したのか、子供達がデジモンをムラサキ達に返してきた。画面を覗くとそこには変わらないアグモンの姿。パラメーターを見ても異変は見つからず、ムラサキは安堵した。
 返すなりそそくさと子供達は去っていく。

「じゃあ俺達もそろそろ帰るか」
「うん!」


 ▽


 次の日、マサトは今日も公園に繰り出しデジモンバトルをすべく、ムラサキの家の前で待ち合わせをしており、彼が玄関を開けるのを待っていた。
 暫くするとガチャという音と共にムラサキが玄関から出てきた。
 しかし様子が明らかにおかしい。
 風邪でも引いたのだろうか。顔がゲッソリしたような印象を受け、覇気が全くを持って見当たらなかった。

「とんでもねぇ事になった……」

 そんな顔でそんな事を言われたマサトは風邪か、それとも何かもっと重大な事が起こったのかと心配する。

「ど、どうしたの一体!?」
「こ、これを見てくれ……」

 ムラサキが差しだしてきたのデジモン。
 いつも見てるじゃないかとマサトはまじまじとムラサキのデジモンを見てみると、昨日とは変化している所があった。
 画面の中にいるのは昨日までいたアグモンではない。
 何か──スライムのような、ナメクジようなモンになっている。


 ▽


「ムラサキくん! ついにアグモンが進化したんだね! やったじゃん!」
「全然嬉しくねぇよ……コイツはヌメモンっていう、世話をサボりまくった挙句に進化してしまう最弱モンスターだ」
「え!? ムラサキくんそんな育成サボってたの!?」
「なわけあるかい!」

 マサトへのツッコミに思わずムラサキは吹き返したが、すぐに深刻な面持ちになる。

「考えるられる事といえば誰かが俺のデジモンを細工した」
「!? 一体誰が!?」
「ほら、昨日の」
 
 マサトはハッとした顔を見せたがすぐに首を振る。

「いや、でもあんな子供達がちょっとイジくってただけじゃないか!」
「俺も最初はよくわかんなかったが出来るんだよそれが」
「どうやって?」
「睡眠妨害も育成ミスに入るのはマサトも知っているだろ?」
「うん、でも昨日は夕方だったじゃないか」
「デジモンは時計をイジくれるんだ」
 
 ムラサキはため息を漏らす。

「それじゃあ……!?」
「昨日あの子供達は俺のデジモンの時計をイジくって眠らせすぐに起こし、それを繰り返していた。育成ミスをさせまくっていたんだ」
「そんな事を……あんな小さい子供がそんな難しい事出来るのかなそれになんでそんなことを!?」

 ムラサキはため息を漏らす。

「あんなもん相当簡単な操作だ。あんくらいの歳でもやり方させ覚えればわけないだろう、
そして──」

 マサトは首を捻る。
 ムラサキはため息を漏らす。

「それをあの子供達にさせたのはたぶんアツシだ」
「そんな……!?」

 アツシは下級生への洗脳スキルは目を張るものであるらしい。友達がいない彼が下級生を使ったイタズラを続けていたのだ。侮ってはいけなかった。
 一〇〇%の確信こそはなかったが、間違いないとムラサキは感じていた。
 その時,今度はマサトのデジモンが電子音を上げた。
 マサトが確認すると画面に写っていたのは先程見たばかりのヌメモンの姿。

「僕にもやられてたんだ……」
「畜生!! アイツら俺だけじゃなくマサトのデジモンにまで……!!」

 ムラサキは殺気に満ちた目をする。

「あいつ見つけてぶん殴ってやる……」
「駄目だよそれは!!」

 マサトはまじまじとムラサキを見つめた。

「でも……」
「今度のダイエーカップで、デジモンでケリを返そう?」
「そんな事言っても……こんな奴じゃ勝てやしない……」

 画面の中を蠢くナメクジ。

「でもコイツ、結構可愛いよ」


 ▽


 マサトにとってムラサキは絶対的存在であった。
 友達も多く、勇敢で優しい。
 足も速かった。
 マサトが初めてムラサキと話すような仲になった時の事を思いだす。
 三年生の時の運動会。リレー種目。
 バトンを落としてしまったマサトは、僕の所為だ。もう駄目だ。と泣きながら自分を責め立てていた。
 そんな時、同じチームのアンカーであるムラサキがマサトに渇を入れた。

「あきらめんな! 俺がなんとかする! 最後まで全力を尽くす!!」

 結果、最終走者ムラサキはぐんぐんと他の選手をゴボウ抜きしていったが、結局一位ではなく二位だった。しかしマサトにとっては順位よりもムラサキのその姿勢が、自分のちっぽけな価値観を揺るがした。
 そんなムラサキが珍しく自分の前で弱気になっている。
 ほっとけるわけがなかった。


 ▽

「やろう」 マサトは力強く言い放った。「ネバギバだよムラサキくん、最後まで全力を尽くそう! やれることをやろう!」
「マサト……」

 ヌメモンが写るデジモンを見るムラサキ。
 自分は何か大事な事を忘れてたみたいだ。
 やろう。
 今出来る事を精いっぱい。
 困惑の顔が決意に変わる。

「ありがとよマサト!!」
「うん!」


 ▽

 八月十日 日曜日。
 ダイエーカップ決勝。
 アツシは意気揚々とした顔を浮かべていた。

「ついに進化したメタルグレイモンで楽勝に決勝にまで来たぜ」
「フヒヒ、流石ですねアツシさんヒヒ」
「あいつらはどうせヌメモンで予選敗退か、大会にすら出てないだろうグハハハ、全くマジで愉快だぜ」

「それはどうかな」

 聞きおぼえのある憎き声。
 アツシの前に立ちふさがったのはムラサキとマサト。

「なんだお前ら、今から決勝だぞ邪魔だ」
「決勝の相手は俺だけど?」

 ムラサキが決勝に上がってきただと。ありえない。アツシは激しい動揺を覚える。決勝に来るまで少なくともヌメモンよりは強い成熟期デジモンをたくさん見てきた。中にはアツシと同じメタルグレイモンがもう一体出場していたというのに。

「お前まさかヌメモンを捨てて別のデジモンも育ててたのか!?」
「俺の愛しきヌメモンちゃんを捨てるわけないだろ」

 ムラサキは笑う。

「じゃあ一体どうやって!?」
「ヌメモンは進化した。このもんざえモンでお前をぶっ倒す!!」
「ハハハハ!! なんだそのフザけたデジモンは! 俺の鍛え上げたメタルグレイモンで瞬殺してやるよ!!」


 ▽

 結果。
 三回勝負でムラサキのストレート勝ち。
 アツシが泣きわめいて少し可哀想になってきたのでマサトはズルをもうするなと念を押し、今度は一緒に遊んでやると約束をしておいた。

「いやぁまさかヌメモンからの進化が最強ルートだったなんてな」
「びっくりだったね」
 マサトのデジモンが不意に電子音を立てて鳴り響く。

「あっ見てみてムラサキくん!!」
「おっ!!」

 ムラサキとマサトは最高の笑みを浮かべる。










──1997年.めちゃくちゃに暑い夏の日の出来事。






おわり


|HOME|
Copyright(c)2003/3/18 D.N.SQUARE all rights reserved.
inserted by FC2 system